女として生きていると、性被害に合うことが本当に多い。
「私も昔は綺麗でモテたのよ」なんて自慢、みっともなさすぎて本当はしたくないけれど、大学生の頃の話をさせてほしい。
一方的に向けられる感情と欲望
好意をやんわり断る
私がまだ大学生だった頃、私は今よりも痩せていて綺麗だった。
自分でいうのもあれだけど、顔立ちもかわいい部類に入っていたと思う。
あの頃は正直何もしなくてもモテたし(むしろ勘違いさせることのないように言動には気を使っていた)、「彼氏がいる」と言っているのにアプローチしてくる人はごまんといた。
正直なことを言うと、若かった私はそれについて誇らしい気分になっていた。
デートに誘われたことは何度もあり、告白されたことも少数だけどあった。
好意を断る、というのはエネルギーをものすごく使う。
相手を傷つけてしまうのではないか、逆上して危害を加えてくるのではないか、ほかにも色々なことを考えてなるべく穏便に相手にNoを突きつけなければならない。
相手を傷つけてしまうのはこちらの本意ではなく自分としても悲しいことだし、叩かれたり強姦されるようなことがあれば男性には力では敵わない。
だからなるべく無駄な好意を持たれないように、私は好かれるようなことは避けるようにしていた。
「この人は自分を好きになることが無い」と確信することができたサークルの男性たちと、気を使わない友人として付き合っていた。
「やんわり」を受け取ってくれない男性
大抵の人は、(彼氏がいることを知っているくせにというのは一旦置いておいて)非常識的なアプローチや強引な手段に出ることはなく、こちらの拒否や、やんわりとした拒絶を受け入れてくれた。
そういう人たちに対しては負の感情を抱くことなく、さわやかにフェードアウトすることができた。
だけれども、そうでない人も一定数いた。
以前の記事で書いた バイト先のマスターからのセクハラ をはじめ、男性たちから不快な気分にさせられたことは何度かあった。
その中でもよく覚えている件がある。
海辺を散歩していた時の出来事。
私が大学時代住んでいた場所は、30分ほど歩いた場所に海岸があり、散歩好きな私はその近くの図書館に行きがてらよく海沿いを歩いた。
ある日の午後、夏の潮風を堪能した後家路につくために海岸そばの遊歩道から一般道に出た。
その時、一台のバイクが目の前を走り去っていった。
バイクに乗っていたのは男で、通り過ぎる間サングラスをかけた顔をずっとこちらに向けていた。
なんかすごい見られていたな、と若干嫌な予感を抱きつつ自分は家に向かって歩き始めた。
バイクはそのまますぐそこのT字路を右折していった。
道を渡り家に続く道に入ってすぐ、先ほどのバイクが前からやってきた。
T字路で曲がったのは、私に先回りするためだったのだ。
嫌な予感は当たった。
男は案の定声をかけてきた。
ヘルメットとサングラスを取ったその男は、一回りかそれ以上年上だった。
バイクに乗せてやるから遊びに行こう、とのことだ。
冗談じゃない。どこに連れて行かれるか、何をされるかもわからないのに着いて行くわけがない。
私は、自分には恋人がいること、疲れたので家に帰りたいことなどを言って断ったが引き下がってくれはしなかった。
普段ナンパなら無視して早歩きで去るところだが、この日の相手はバイク、自分は徒歩。走って逃げることなどできない。
なんとか説得して帰ってもらうほかにない。
どんなに断ってもずっとしつこく誘ってきたが、この時点で私はげんなりとしテンションは最低だった。
結局妥協案として、すぐそこの海に戻るくらいならいいということにした。
そこからはもう今でも怒りが沸き上がるくらい最低な時間だった。妥協などせず頑なに断るべきだった。
海辺の遊歩道に戻ってから、男はしきりにホテルに誘ってきた。
「彼氏とやるときとは全然違う大人のセックスを教えてやる」などと言ってきた。
気持ち悪かった。そんなこと全く魅力に思わなかった。
その男と「大人のセックス」をすることが私にとって何のメリットにもならないばかりか、裸の、無防備な私をその男が大切に扱う保証は無い。こんな身勝手な男がコンドームをするなんて思えない。
どう考えてもデメリットしかない。
それに、私はこの男とやりたいという感情は一切持っていなかった。むしろ気持ち悪くてやりたくなんてなかった。
一方的に私の身体を性的に消費しようとしていたこの男に、何としてでも負けるわけにはいかなかった。
万が一手などつなぐことの無いよう、男と横並びになっている側の手には飲みかけのペットボトルを握りしめていたのだが、男は「手を繋ごう」と言い私のペットボトルを奪い取って、それを海に投げ捨てた。
そのまま強引に手を握ってきた。
本当に気持ち悪かった。
でも、こんな訳の分からない男に逆らったら何をされるかわからない恐怖。
その恐怖の前ではひたすらその気持ち悪さに耐えるしかなかった。
私は恋人繋ぎさせられたその手を握り返さず開いたままにしていたが、その男が握り返すよう言ってきたため、嫌々ながら握り返した。
お互い、相手が根負けするのを待っていた。
私は手を握られたまま男の要求をひたすら拒絶し続けた。ただし相手を怒らせないようにやんわりと、という絶妙なバランスを探りながら。
そしておそらく男は、私が根負けして付いていくまで粘るつもりだったのだと思う。
私は男が要求してくればしてくるほどテンションを下げたし心を閉ざした。
もはや自分にとっては勝ち負けではなく無駄な耐久戦でしかなかった。
やっと相手が諦めた頃、空は暗くなっていた。
私の大切な午後の時間を、嫌な気持ちで満たされた。
家までバイクでついてこられたらたまらないので、タクシーを拾って帰った。
大学生の私には痛い無駄な出費だった。
大学生の頃はまだ何も知らず、ただただ不快な思いをしたエピソードとだけ思っていたが、今思えばこれはれっきとした性暴力だと思う。
一方的に性行為を要求され、もしその要求を呑んだら和姦ということになっていたのだろうか。
もしそうなっていたとしても絶対に和姦ではなかった。
粘り強く断り続けた甲斐もあって性行為は未遂ではあったけれど、しつこく要求し私の時間を奪い、手を握り、心の安全を脅かしてきたこれらの行為が、性暴力でなくて何だというのか。
他にもセクハラや痴漢、そこまで言わずともしつこい男性に不快な思いをさせられたことは何度もある。
幸いなことにレイプをされたことは一度もないが、こちらの意思を尊重されず一方的な感情や欲望を向けられたという経験が多かった。
考察
男性からしてみれば、女は落とす「モノ」なのかもしれない。
その考えが根底に流れるわけを、女のわたしは理解することがなかなか難しいけれど、ヒントを見つけることはできた。
女の子に一方的な感情と欲求を向けた末、同意をせずその子にキスをした経験のある男性が書いた 同意なきファーストキス -こうして僕は性加害者になった-(外部サイト) という記事を読む限り、男性側のその思いを少しだけ感じ取ることができた。
恋愛至上主義の世の中で男性が苦しみ、自分の欲求と感情の高まりばかりに気を取られ、女にも意思があることを忘れているのだと思った。
この記事の人は気づけた。だけど世の中には気付けない男性が沢山いるんだと思った。
ある種の同情に似た感情も湧き上がる。けれどだからと言って女性を物のように扱う免罪符になるわけではない。
記事の中にもあるように、女性は(というか少なくとも私は)男性から一方的な感情や欲求を向けられた時、ただそれが通り過ぎるのを待つことがある。
その時の自分の身体の安全を最低限確保するためであるし、またその時に大きなショックを受けないように脳が何らかの抑制をしているという説もあったりする。
そして後になってその行為や意味を咀嚼した際に、怒りや悲しみなどが湧いてくる。
嫌なら拒否しろ、その時に相手を非難しろ、後になってギャーギャー言うななどというのは、色々なことを耐えている女性にとって親切な対応ではないと私は思う。
私の思い
女性は男性のことを完全に理解しきることはできない。
同じ女性の事すら理解しきることは無理なのだから。
そしてそれはきっと男性側も同じことだと思う。
だからどの性の人も、お互いの抱えるものを少しでも理解しようとすべきだと思うし、その思いやりや歩み寄りが不要な悲劇を減らすことにつながるのだと思う。
やれ男尊女卑だ、女尊男卑だなどとネット上では互いに戦いが繰り広げられているが、お互いの性が抱えるものを少しでも理解しようとする姿勢が圧倒的に足りていないと思う。
私は女性の側の意見しかできないから、この記事のように「男性からこんなことをされて嫌だった、こんな被害を受けた」と発信することしかできないけれど、絶対に男性側にそれについて思うことがあるだろうし、男性も女性から嫌な思いをさせられたり被害を受けることがあると思う。
そういうことを私は知ってきたいと思っているし、女性が知らなければいけないのだと思っている。
喧嘩するのではなく、相手の事情を知りたいと私は思っている。
私は表面上だけ尊重されたいわけではない。
男性も女性もその他の性も、なるべく少しでも不快な気持ちにならないように、何らかの被害を受けたりしないように、尊重しあえる関係になれたらいいなと、思っている。
上記の思いを踏まえた上で言わせてもらうと、女性がこのように不快な思いをしたり被害を受けたりすることは珍しいことではない。
男性からしたら大したことのないことなのかもしれないけれど、それによって心身を消耗している女性がたくさんいることを、男性は知ってほしい。
恋愛や性は、相手がいてのことだということを理解してほしい、そして相手の身体や意思、性の自己決定権を尊重してほしい。
それが私の思い。
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