子供の頃、周りの人たちが言う「寝起きは頭が回らない」という言葉が不思議でならなかった。
私は寝起きでも昼間でも、いつでも回転速度が同じだったからだ。

だけど大人になってわかった。
寝起きでも頭が回転していたのではなく昼間の回転速度が寝起き並みに遅かったのだ、と。

自分で何かを考えたりしない。
ただ受け身で、ただ親や先生の言われたことだけを、言われた範囲だけで思考していた。
それだけでよかったから、寝起きでも昼間でも関係なかった。

大学生になって、初めて一人暮らしをした。
食べるものも着るものも、お金の使い方も講義の入れ方も全部自分で考えた。
人間関係も、将来のことも、何もかも自分で決めた。
昼間、脳みそはフル回転していた。寝起きは子供の頃と変わらなかった。

やっと、徐々にではあったが、大人の付属品ではない独立した一人の人間になることができた。
子供の頃の自分と大学に行ってからの自分とでは、私の中ではもはや記憶を共有しているだけの別人。

第一志望の大学に受かっていたらきっと、実家から大学に通っていた。
そして多分いつまでも自分で物事を考えられない、大人の付属品だった。
愛情深いゆえに子離れのできなかった親から自立するために必要だったのは距離。
新天地でやっと、やっと「自分の人生」を歩き始めることができた。
寝起きを辛いとぼやく、自分だけの人格を持った一人の人間になれた。